02


無事、静を生徒会室で引き渡した明は何故か頼んできた京介に驚かれた。

「本当に連れて来たのか」

「え?」

呟かれた台詞に明の方が驚く。
結局京介が何故驚いたのか曖昧に誤魔化され、明は腑に落ちないながらもその後は教室に向かって授業を受けた。

そして放課後。

明の足は図書室に向かっていた。
放課後になれば図書室には勉強や読書に訪れる生徒の姿がちらほらと見える。

迷わず明は静が写真集を積んでいた席に向かい、そこから程近くの書棚に並んでいた写真集を手に取った。

「これとこれ…か」

見途中だった写真集を手に、昼間座っていた席に座る。
そうしてまたぱらりと写真集を捲った。

「………」

季節は秋から冬へ、傾いた陽射しが枯れ葉をほんのりと照らす。
切り取られた風景は静かに見るものの心を揺さぶった。

「凄い…」

静も同じように同じことを感じたのだろうか。
自然と零れ落ちた言葉は静が口にしていた言葉だ。

「………」

明の近くに座る人はなく、何だか不思議な気持ちに包まれて明はまたぱらりと頁を捲っていく。

「………」

時は静かにゆっくりと流れた。


◇◆◇


「……無防備にも程がある」

机に腕を乗せ、その上に横向きで頭を乗せた体勢で寝息を立てる明に、図書室を訪れた静は怒ったように見下ろす瞳を鋭くさせた。

「自分が今どんなに危険な真似してるか分かってないのか」

カタッと明の正面にある椅子を引き静は腰を下ろす。
それでもまだ起きる気配のない明に静は眉を寄せた。

「まったく…」

机に頬杖を付き、空いた片手を伸ばす。オレンジがかった茶色の髪に触れ、ふっと諦めたように優しく口許を緩めた。

「お前は自分がどう見られてるか分かってなさ過ぎる」

さらり、さらりと髪を梳けばもごもごと明が口を動かす。言葉にならぬ声で寝言をもらした明に静は一つ息を吐くと髪から離した手で、かけていた眼鏡を外した。

「ほんとしょうがねぇな」

かちゃりと外した眼鏡を机の上に置き、静は椅子から立ち上がると明の隣へと移動する。
こちらへ近付いて来る人の気配と足音に気付きながら静は横を向いたまま暢気に寝息を立てている明にそっと覆い被さった。

「なぁ、明」

耳元に唇を寄せ囁く。

「襲われても文句は言えねぇんだぞ」

ぴくりと明の肩が揺れる。起きたか?と静は明を気にしつつも鋭い眼差し は人の気配のした方向へ向ける。

微かに見えた人影は静と視線が合うなり身を翻す。
耳を澄ませばばたばたと遠ざかる足音。
全ての気配が去ってから静は自分の下にいる明に視線を戻した。

起きたかと思った明は緊張感もなく未だ穏やかな寝顔を見せている。

「……明。お前が悪いんだぜ」

言い訳染みた呟きを落とし、静はゆっくりと顔を近付ける。
そして…すぅと零れる吐息を少しだけ奪った。







「ん…?…れ?」

ゆっくりと浮上した意識に明は自分が寝ていたことに気付く。

「おはよう。と言ってももうすぐ夜になるけどな」

そして、いきなり掛けられた声に驚き勢い良く顔を上げた。
いつから居たのか正面の椅子には静が座っていた。

「え…」

「そんなに驚くなよ」

「いつから…?」

まったく気付かなかったと明は純粋に驚く。
問い掛けられた言葉に静は少し考えるような素振りを見せ、肩を竦めると口端を持ち上げ軽い口調で返した。

「さぁ?いつからだろうな」

「さぁ、って…」

「そんなことより疲れてるのか?」

からかってきたと思ったら不意に真面目な顔で訊かれて明は戸惑う。

「疲れてるなら寄り道なんかせず寮に帰って寝ろ」

「…うん」

大人しく明が頷けば静は満足したように席を立つ。
それにつられるようにして明も椅子から立ち上がれば、明の影に隠れるように出されていた写真集が静の目にも映った。

「お前、それ…」

「え?あっ、片付けるの忘れてた」

慌てて書棚に返しに行った明の背を静は何と言い表して良いのか分からぬ感情を抱いて見つめる。

「俺が見てたからか…?」

それも明が戻ってきた時には綺麗に隠されてしまった。

並んで歩き始め、図書室を出てから明はハッと気付く。

「何で一緒に帰ってるんだ?」

「今さら、どうせ同じ場所に帰るんだから良いだろ」

ふっと艶っぽい流し目を流されて明は頬を熱くさせる。

「っ、変な言い方するな!」

「変な言い方って?」

「だから…っ」

「俺はいつでも大歓迎だけどな。…明が望むならこのまま俺の部屋に連れ帰ってやろうか?」

慣れた動作で腰を抱かれ引き寄せられる。
その方面に耐性のない明は真っ赤になって、思わず静を突き飛ばした。

「ふ、ふざけるな!」

「そんな赤い顔して言われてもまったく怖くないな。むしろ可愛い」

「〜〜っ」

にやにやと笑って言う静に明は悔しげに顔を歪める。
口では勝てないと悟った明は静から視線を反らすと早足に歩き出した。

「おい、明?」

「………」

背後から掛けられた声を無視して赤い顔のまま明は寮に向かってずんずんと足を進める。

「からかいすぎたか」

その後ろを静が付かず離れずの距離でのんびりと歩く。


果たして、二人の間にある距離がゼロセンチになるまで後何日―…?



END.

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